写真を撮るということ、捨てられたものと掬われたものと。

自分がなぜ、写真を撮るようになったのか、きっかけ自体は単純なもので人から勧められたからだった。しかし、なぜ私は撮り続けるのか、そこがずっと私自身にもわからない部分だった。単純に撮影という行為自体が楽しいというのもあるし、撮った写真が徐々に…

ピエール・ルメートル『その女アレックス』(2)

こちらはネタバレ的なことを少し。 最後、全てが明らかになる。物語の結論に対して賛否あるようだが、私はこの結末をとても気に入っている。アレックスは、本当につらい、胸の痛む、悲しい結末を自ら選び取る。そこには人生を正しく清算したいという強力な意…

ピエール・ルメートル『その女アレックス』

その女アレックス (文春文庫)作者: ピエール・ルメートル出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2014/11/28メディア: Kindle版この商品を含むブログ (31件) を見る 普段は古い本ばかり読んでいるのであまり書くこともなく、研究用の書架にほうりこんでそのままと…

30年前のある夏の日

残暑の厳しい夏の終わりのころだったと思う。体育館に集められたN小学校の生徒たちは、戦争で手や足を失った人たちのライブを聴くことになった。一曲終わるごとに戦争がどれだけ悪いことで、どれだけダメなことかを我々小学生に訴えながら、陽気な曲で我々会…

8月8日

私は物心がつくのが遅かった。小学生になってもまだ私の世界は薄皮で覆われたようにぼんやりしていて、色々な記憶が残り始めるのは、ようやく9歳頃からだと思う。私は勉強的にはある程度優秀な子どもだったが、世界や人間というのがあまりよくわかっていなか…

記憶

ナビに指示されるままにぼんやりと運転をしていて、ふと気づいた時に胸が締め付けられるような圧迫感を感じて、そしてすぐに気づいた。この道は、あの日、4年前のあの日、絶望的な気持ちで車を走らせて、このまま死ぬことが出来たらどんなに楽だろうと思いな…

40を目前に

数週間前に38歳になった。立派な中年だ。でも全体から見ればまだ若いほうなんだろう。今までの人生、ずいぶん脱線が多かったような気がするが、それでも私の職場を見回すと私はまだ若手の部類で、あまり年下はいない。私の趣味のカメラも、私より若い人で私…

普通であれるというオプション

どういう経緯でその記事を見たのかは忘れたのだけど、ある作家がモデルと結婚したという話で、そしてその馴れ初めのあたりがつらつらと書かれている記事を読んだ。その時に少し違和感を感じて、その違和感の正体を考えていたのだけど、カレーを作っている最…

論文書き

今年に入って二本連続で論文が不採用になった。出したところが両方「日本ほにゃらら学会」だから、一番デカい場所に出して落ちたわけで仕方ないのは仕方ないのだけど、落ちるとは思ってなかったので驚いた。多分好き勝手なことを書いたからだろうと思う。や…

複製作品の価値

写真が売れた。というか、最近ときどき写真を売ってくれとか写真を使わせてくれとか言われるようになったが、今回はわりと桁が大きかった。額装付きで5枚で15万円。サイズがデカかったというのもあるけど、プロラボ経由でプリントアウトしたので、かなりの値…

表象

撮影枚数が10万枚を越えて来た頃に気づいたのだけれど、結局写真を撮るということと文章を書くということの間に、あまり大きな差はない。勿論これは語弊がある。正確に言うならば、ある人間が写真を撮ろうと文章を書こうと、結局そこに表象されるのは個々人…

写真を撮る

写真を撮ることで現実世界の枠が広がりつつある。ひっきりなしにブログを書いてた頃の友人と会うことも出来た。それは思った以上に私にとっては大事なことだったようで、その時の暖かみや温もりというのを、一ヶ月以上経った今も、私は未だに大事な記憶とし…

照明弾と村上春樹

村上春樹があとがきや前書きを付けるのは珍しい。その珍しい「まえがき」の中で、今回の作品集がどのように出来上がったのか、そして彼にとって短編を書くというのがどのような意味をもっているのか、その理由がとても丁寧に書かれている。その最中、ふと村…

見える世界

趣味は?と聞かれて、今までは口ごもることが多かったのだが、ここ数年はわりとしゃっきりと「カメラです」といえるようになった。で、撮った写真などを見せたりすると、機材の素晴らしさのためにわりと感心されたりして、そうすると職場なんかでカメラ奉行…

パンツの中の手紙

TwitterのTLにクラリッサの全訳が流れて来て、ふと思い出したのがタイトルの話。同じサミュエル・リチャードソンが書いた『パミラ』という書簡体小説の中に出てくるエピソードなのだけれど、主人公である奉公人パミラが、自分の書いた手紙を主人であるミスタ…

チェスタトン『木曜日だった男』

探偵小説が本当に好きだった頃、一日に一冊という勢いで読んでいたような時期があって、その時に読んでいたのは主に日本の現代の探偵小説だった。そこから過去に戻って行って何はともあれポーを読んで、そしてドイルを読んで、さらにクリスティやヴァンダイ…